ファイトナイトの歴史性

EAの「ファイトナイト」というボクシングシリーズがある。このシリーズは、直感的な操作と超リアルなグラフィックのボクシングゲームと語られがちだ。しかし、このシリーズは、その一部に画期的なシステムを搭載している。

それは、決して「アナログレバーを倒す=その方向にパンチ」というEAが宣伝していた部分ではない。海外製の3Dアクションにおいて、「方向キー=キーの方向に攻撃」のシステムは決して珍しいものではなかった。

「ファイトナイト」が新しかった点、それは、それまでボクシングゲームのお約束であった「ダウンしたらレバガチャ、ボタン連射で復帰」というお決まりのパターンを覆したところにある。

このゲームでダウンしたらどうするか。アナログスティック2本を使って「焦点を合わせる」のである。

ダウンすると、倒れたボクサーの視点にカメラが切り替わる。その視界には、スローモーションでカウントを取るレフェリーがぼんやりと映っている。聞こえてくる声もどこか膜がかかったようだ。このシーンで、カウント10になる前に2重にぼやけて映っているレフェリーを1つに重ね合わせるのだ。

当然、ダメージが深ければ焦点を合わせる操作もシビアになってくるし、2回までは絶対立てるだろ的なこれまでのシステムと違って安心感が薄く、緊張感が持続する。なんせ、焦点が合わなかったらいきなり負けだからね。

この演出とゲーム性がマッチした画期的なダウン時のシステムによって、「ファイトナイト」はゲーム史に残るに違いない。いや、残るかもしれない。あー、まあ、残ってもいいと思うんだよね、僕は。

で、そんなファイトナイトの新作が会社のライブラリのXbox360で稼動してた。6名ほどが集まって、口々にすげーすげー言ってた。画面にアイコンや数値などの表現が一切ない。肌の汚れ、表情の歪み、モーションのヨタりや息遣い、ボクサーから発せられる情報がすべて。しかも、それで、本物の中継を見てるがごとく、キャラクタ達のステータスが把握できてるような気になる。いや、あまりにリアルでパラメータを感じさせないといったほうが正しいか。たしかにすごい。

それにしても、とにかくCOMが強い。僕は見ていただけなのだが、適当に操作しても、まったくが歯が立たずにダウンしまくり。ちっとも勝てないので飽きてきた外野がやいやいと勝手なことをいう。

「まず、『はじめの一歩』読まないとだめだよ」

「いや、それをいうならYoutubeで試合のビデオだろ」

「○○さんって、昔ボクシングやってたって言ってなかった?

「呼んでこい、呼んでこい」

いや、マニュアル読めよ。

しかしながら、本職をもってして、リアルとゲームの境を見失わせるその迫力、実現にはさぞかし困難があったことでしょう。滑らかなモーションのつなぎ、汗の匂いさえ漂ってきそうな肌を実現するシェーダ、常にアップなカメラに耐えるモデリングと精緻なテクスチャ、感服です。僕らも頑張ろう。