サンフランシスコのモバイルゲーム会社に入って驚いたこと -日常編-

2014年前半から17年後半まで在籍した、F2Pの中でもビルダーと呼ばれるモバイルゲームに特化したTinyCo(現Jam City)というスタジオに在職中に印象に残ったことを書きます。入った時点で設立4年目くらいで40人いるかいないかくらいの規模だったのが、3年半後に辞める時には3倍に人増えてたようなスタジオなので、まあ、アメリカ西海岸ベイエリアのそういう会社ではそうなんだな、くらいに読んでくだされば幸いです。本当は退職のタイミングで公開しようと思ってたはずなんですが、なぜか下書きに入りっぱなしになっていて、id:shindannin さんの記事に触発されてついに公開に至りました。
shindannin.hatenadiary.com

驚いたこと全部書いてたらめちゃめちゃ長くなったので、日常編と業務編に分けました。

ちなみに、その会社への就職活動編はこちらです。もし興味があればぜひ。
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日常編

セガナムコから、設立4年目&モバイル専門という極端に違う環境に移ってカルチャーショックが多発しました。

毎晩オシャレ飯が出る

面接でオフィスに行ったとき、「げ、ヤバい。夕飯出てる。超クランチじゃん」って思ったら、案内してくれたオシャレ女子(社員)が、毎晩イケてるケータリングを頼んでるのーって教えてくれました。入社後わかりましたが、ほとんどの人たちはワイワイと楽しく夕飯を食べてすぐ帰ってました。つるまない人は自席で食べてすぐ帰ってました。美味しい美味しくないはさておき、ヒップでポップなご飯に詳しくなりました。

スナック・ドリンク・お酒が無料

ご飯の時、ビールやハードソーダを飲んでる人がわりといました。いわゆるシリコンバレーベイエリアのスタートアップのスタンダートというか、キッチンのあるエリアになんでも無料のスナックバーとドリンクバーがあるんですが、意識が高いのでドリンクの種類の半分は匂いがするだけの水か炭酸水で、スナックはジョリジョリしたエナジーバーと果物がほとんどでした。勝手な憶測ですが、今なら昆虫食がありそう。在職中、肉を焼く人は一人も見ませんでした。
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ランチは基本TOGO

オフィスの場所がフィナンシャル・ディストリクトというサンフランシスコの中でも企業ビルの多いところだったこともあり、レストランに入ろうものならランチ+飲み物で軽く30ドル飛びます。なので、若い子は弁当持参も多かったし、僕は基本的にフードトラックやテイクアウト専門店、ちょっと良くてフードコードでした。よく行ってたのは薄暗い地下のフードコートのベトナム料理屋(チキンPhoが11ドル)と、ファーストフードのメキシコ料理のChipotle(ブリトーボウルが約10ドル)でした。月一くらい時間に余裕があるときはラーメン屋で日本なら半額であろう一杯20ドルのラーメンを食べたりしてました。
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面白かったのがTOGOに特化して好きな店の持ち帰りメニューを好きな日に予約して並ばずに帰るサービスMeal Pal。どこでランチを買っても並ばずに買うのは難しい地域だったので、自分にとっては「並ばずに」っていうところがポイントでした。
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4時過ぎると酒を飲み始める

人がまあまあいて、僕のまわりの席全員飲みながら仕事をしていることもありました。飲むっていっても地ビールとかアルコール入ったリンゴソーダとかで、コイツ酔っぱらってる!みたいになってた人は見なかったので、ちゃんと節度を守っていたようです。まあ飲んでなくても酔っぱらってるような人はたくさんいましたけど。

30代半ばにして長老枠

新興のモバイルゲーム会社で、とにかくみんな若くて、特に若い子だと初めて遊んだゲーム機はPS2とか普通。「ソニックバトルPSO作ってたの!小学校の時あそんでた!」とか言われて77年生まれの僕は初めてエルフの気持ちを味わいました。あとはとにかく人の出入りが早い。僕がいたときは平均滞在時間2年なかったはず。これは業務にも大きく影響してました。

人事とITの専門家がいない(いなかった)

福利厚生は基本ZenefitsっていうHRの外部サービスが担当。IT系のことはQAの人か、優しいプログラマーが助けてくれるだけ。入ったときに支給された機材類には管理のためのバーコードとかそういうの一切なかったですが、さすがに規模が大きくなってきた2016年くらいからは管理用のステッカーは貼られるようになってました。
www.zenefits.com

オフィスは基本平机

2004年ごろ渡米したときは、ゲーム開発会社のオフィスといえば、薄暗くて高いパーテーションでしっかり区切られた個人のブースがもらえる(ていうかもらった)イメージだったけど、窓が大きくて机がばーっと並んでるだけの、真逆の感じ。でも、スタンディングデスクとか、腰に良い椅子とか、バランスボールとかのリクエストは誰でもすぐ対応してもらえてました。個人的には仕切りがないほうが普通に話しかけられて好きです。人の出入りが激しいのもあるし、プロジェクトの回転も早いのもあって、フロア内での場所移動は日常茶飯事なんで、前職と違ってあんまり机にものを置かなくなりました。写真は前職のオフィスより。
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WFH多いし普通

ていうかWFHって言葉を知らなくて、何この人たちメールでwhat the fuck連発してんの!?って驚いたら違いました。これはモバイルゲーム開発でアート除くほぼ全員ラップトップ+クラウド環境で仕事できたのも大きいかもしれませんが、電車遅延してて通勤の時間もったいないからとか、宅配便が届くからとか、医者にいくからとか、今日は集中したいからとか、ほんと気軽にWork From Homeしてました。ていうか集中したいからって何?具合が悪いからWFHってメールに書いた人たちは、具合が悪いなら働かないでちゃんと休んでっていわれてましたね。

すぐ体調不良で休む

風邪はもちろん、眠れなくて休む、花粉症がひどくて休む、首を寝違えて休む、食あたりで休む、歯が痛くて休む、原因不明だけど具合が悪いので3日休む、と親戚が死ぬ余地などまったくないほどポンポン休むのが良かったです。有給は、PTOとSick Leaveに別れてて、PTOは最終的に買い取ってもらえるしなるべくSick Leaveを使いたいのが人の性かなとも思いましたが、今思えばトータルで休みたいときにちょっとでも具合悪い時に休んでもらうほうが無理するより良かったのかなと思います。業務で困ったことがあった気もしますが、あんまり覚えてないし。

ていうか有給が無限になった

それが関係するかわかりませんが入って2年くらいたって導入されたのが、Unlitmited PTO。無限有給です。当時ベイエリアのテック企業で流行ってました。どうなるんだろうって心配しましたが、一応マネージャーの許可制になってることもあり1週間とか2週間くらいの休みはまんべんなくありましたが、やらなきゃいけないことができなくなるようなトラブルはなかったです。有給をためるって概念そのものがなくなるんで、休んだほうが良いのに休まない人が減って、なんかあれば休もーっと!ってプライベートを優先しやすくなるって意味で好きでした。

同性愛がかなりオープン

これは、若さと場所に由来するだけかもしれません。でも、このオフィスに来て本来あるべき環境はこれなんだと気づかされました。会社のパーティに同性の恋人つれてくるのはぜんぜん普通。6人編成で小さいチームを作ったときは僕以外全員同性愛者でした。この環境にいれば、差別をするとかそういう考えがそもそも生まれてこない気がします。かしこまったいわゆる「カミングアウト」ってのは一度も出会わず、会話の中で男性が「my boy friend」、女性が「my girl friend」っていってああそうなのねってなるケースと、SNSでつながったときに同性と恋人オーラが出ててわかるケースがほとんどでした。トランスジェンダーの方もいて日常で話しをする中で、性指向と性自認、そして性表現に生物学的な性別、さらに戸籍上の性別が組み合わさっていて単純にゲイやレズビアンとくくれないということも初めて実感できた気がします。それでも、だいぶ後でゲイだと知った同僚もいました。これだけオープンに感じたオフィスでもやっぱり「普通」には程遠い世の中なんだと思いますが、出会った若い世代の多くがごく自然にさまざまな性差にニュートラルなのは、ものすごい希望です。

ジム通う人と昼休みに運動する人が多い

オフィスがはいってるビルのジムに通う人も多かったけど、家の近くのジムに通う人も多かったです。あとすぐ走りにいったりローラースケートしに行ったりする。入社してすぐのころ向かいに座ってた人が昼休みにいきなり水着みたいな体のあちこちが露出した姿に変身するので内心いちいち驚いてました。

犬とか兎を連れてくる人がいる

とにかくミーティングに犬がいると最高に癒されるというのが発見でした。ギスギスしがちな仕様変更を話すミーティングもワンちゃんがあくびでもしてくれればすべてがうまくいく。タトゥーやピアスばりばりで怖いと思ってた人たちが動物を前にすると赤ちゃん言葉っぽくなってあにゃにゃーふにゃにゃーみたいな態度をするのが良かったです。ただ、強めのアレルギーを持った人が入社した瞬間まったく連れてこれなくなったのは、不思議なシビアさを感じたのを覚えてます。

面白い経歴の人いすぎ

これは業務編にも書きますが、いくつかゲームが当たってイケイケだったこともあり、優秀な人がごろごろいました。自分の部下がスタンフォードやらエール卒とか戸惑いしかなかったし、ゲーム業界外からも優秀な人たちがたくさん来てて、エンジニアだとGoogle, Facebookクラスの有名サービス出身が数名ずついて、アーティストだとルーカス、ピクサー、ドリームワークスみたいな大御所から来た人が1-3名とか。これで何が面白いかっていうと、使ってるサービスや好きな作品をどうやって作ったかの生の話が聞き放題ってことです。ちょう予算をかけたのに没になったゲームに入ってた遊ぶ人全員が絶賛したという幻の仕様から、有名映画なのにネット民も気づいていないイースターエッグやらが日常聞けるのはプライスレスな特権でした。

業務編に続く

というわけで、日常でよく覚えてることを書き連ねました。あとで思い出したら追記するかもです。次はコンソール中心かつ大きくて古い会社から、モバイルオンリー、小さくて新しい会社に移って業務で衝撃を受けたことをいろいろ書きます。
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