ゲーム開発者によるOrigamiプロジェクト

さまざまな噂や憶測が飛び交うMSの「Origamiプロジェクト(http://www.itmedia.co.jp/news/topics/origami.html)」であるが、もうひとつの「Origamiプロジェクト」がMITで開かれていたことはあまり知られていない。今年で第4回目になるMITの"Origami Competidition"が開催され優秀作品が決まったらしい。(http://web.mit.edu/newsoffice/2006/arts-origami-0301.html

また同時期に、この俺も家族と一緒にまったく別の「Origamiプロジェクト」を達成していたことも、あまり知られていない。というか誰もまったく知らない。

実は俺は少し前まで、夜な夜な4時間ずつ折り紙を折る、ORIGAMIマシーンだったのだ。なぜならば、学校で開かれる予定だったわが子の誕生日会において、折り紙で作った花や手裏剣や恐竜を配って、アメリカの子供の度肝を抜こうと目論んでいたから。アメリカに連れてこられて言葉もろくにわからない友達もいない学校に健気に通うわが子が、少しでも周りの「ハローの子」と仲良くなれるきっかけになればと妻と一緒に多少の無理は承知ではじめたのだった。

写真はその時に作った恐竜のうちのほんの1体。写っていないが、足も尻尾もちゃんと折ってある。

このような恐竜の折り紙は、完成までの手順が少ないものでも100フェイズほどあり、慣れたとしても1体におよそ30分ほどかかる。初めて折る種類では、1体に1時間どころか、詰まって紙がぐちゃぐちゃになってあーもう最初からと2時間かかったこともあった。それをクラス全員20人分である。気が遠くなる。

そんなに時間がかかる代物であるにもかかわらず、すべて同じ種類にするのではなく、「お前なんだった?」「交換しようぜ」的にトレードを通じたコミュニケートしてもらいたいという元ネットRPG開発者に独特の欲求によって、すべて違う種を作ろうとしたもんだからさあ大変。

深夜に帰宅し、そのままうつ伏せて眠りに落ちるまで折り紙を折る日々が始まった。手はしびれる目はかすむ肩はギュンギュン痛む、そして睡魔。

ちなみに妻は大量の手裏剣、花、袋などを着実に作り上げ、誕生会のずいぶん前に仕上げていた。手伝おうとする妻を、いや俺が作るからと、なんつーか意地?のようなもので押しとどめていた。なんだか、「いや、ヘルプはいいスよ。俺がなんとかするんで。」とかガクガクする膝を押さえて上司に笑ってみせる俺の仕事ぶりと重なる感じ。

そしてさらに、オーバースペックをオーバーワークでなんとかする俺の良くないゲーム製作とものすごいシンクロしてることに気づいてしまった。そうか、納期に間に合わせるため徹夜の日々を続ける仕事ぶりは、「上司が」とか、「納期が」とか他に原因を押し付けていたけど、つまるところ、俺自身がそういう人間なのだったのだ。

これからは人のせいにせず、自分がリスクとコストを省みずオーバースペックを無理やり達成しようとする人間だと自覚して生きよう。でも、とりあえず、20体の恐竜を完成させよう。

すべてを折り終えぬまま、ついに、息子の誕生日会の日が5時間後に迫った。いつもの24時間営業スタバ(http://blog.drecom.jp/kikuchia/archive/62)で緊急一人会議。これまでに折った恐竜は15体。1時間は学校までの移動や準備に使うとして、残り5体を4時間は、これまでの進捗から考えるとかなりギリギリの線だ。やむを得ない、3体は新作、2体は慣れた同じ種で作ろう。

このへん、「うーん、間に合わないスねー。しかけ、1つ減らして、1つはガワ換えでスケジュールの帳尻あわせましょう。」とか言ってた自分とやんなるくらい重なる。

しかし、まったく同じでは芸がなさすぎる。何かないか、何か。そうだ!同じ2体は、金と銀のティラノサウルスにしよう。レアキャラ!レアキャラ!嬉しいよ、これ絶対。

これまた、「ただガワ換えじゃなくて、この『滝』ってしかけ、ガワ換えてロットかけて逆さまにしたら上昇気流になりません?」とか言ってた自分と立体視できるくらい重なる。

はたして、僕は絶えず襲いくる睡魔と闘いながらギリギリ間に合った20体の恐竜を携えて、息子の誕生日パーティに出席し、子供どころか先生達まで驚かせ、"Cool"を連発させることに成功したのだった。息子も嬉しそうで、なにより、外人の子たちが息子に「これに何て名前?」と次々に話しかけていたのを見て目的が達成されたのを確認した。息子はミニ恐竜博士であるから、得意げに「プテラノドン」と答え、またもや外人の子は"Cool!!"を連発するのであった。

種類がほとんど違うのと、レアな金銀T-REXをしこんだのも功を奏して*1、どの子も夢中で他の子全員の恐竜を確認していたようだった。いや、確認して話したくなるようにしたのだが、狙い通りに子供が泡を飛ばして自分の恐竜を自慢し、手に持って戦わせている姿を見ると感無量だった。自分が担当したゲームの発売後に2chのスレでほめられるのも嬉しかったが、今回はなんといってもわが子が喜んでいる。それが本当に嬉しかった。

自分の子供が自分の作ったもので喜ぶって、ネットで発売前から盛り上がってくれたり、受注○○万本入ったとか聞きいたときとは、ぜんぜん違う次元ですげえ強いモチベーションになるんだなと、確認できた。しかし、そんな熱い気持ちがたぎったのもつかの間。騒ぎを聞きつけてやってきた隣のクラスの先生の一言で現実に返らざるを得なかった。

「IDA-10、本当にワンダフルだわ!ぜひ、私のクラスにもお願い!でも、できれば恐竜じゃなくて動物が良いのだけれど。私、パンダって大好きなの!!」

手を胸の前で組み、きらきらと目を輝かせる先生の後ろから、1つまた1つと生徒の顔が覗く。その子らが折り紙で作られた恐竜に目を丸くした後、"Me,me,me,me,me..."の合唱が始まるのを遠のく意識の中で聞きながら「続編か……」とぼんやりと思った。

*1:ちなみに交換はそれほど行われなかった。自分が与えられた恐竜に突然沸く愛着が思いのほか強かったようだ。交換とは、ある程度自分の持ち物にプライオリティがつかないと、発生しにくい遊びであると実感。