ゲームとリアル

Wii Sportsのボクシングでリアルファイトに突入する子供たちをみて、ゲーセンに入り浸ってストⅡ'の対戦ばっかりしていた時のことを思い出した。

当時、淵野辺のゲームセンター「パレス」には、メガネをかけたガイル使い、通称「メガネ」がいた。たとえソニックブームが当たっても攻めに来ないような、徹底した待ちガイル。サマーで迎撃したときだけ、正確無比な投げハメをしかけてくる。勝つたびにクイっとメガネをあげる癖を良く覚えている。認めたくなかったが、メガネは強く、なかなか勝てなかった。

ある日ゲーセンに着くと、メガネが、土木作業服のヤンキーと対戦していた。メガネは、ヤンキーが操作するリュウに勝ちまくっていた。コンテニュー数を表すスコアの下2ケタは30を超えていて、ヤンキー側のコンパネにはピラミッドのように50円玉が積み重なっていた。

ヤンキーは明らかにイラついていて、負けるたびにコンパネを叩き、台を蹴っていた。積まれた硬貨が崩れ、不穏な音を立てていた。一方、メガネは調子に乗っていた。ヤンキーがまともに昇竜拳をだせないのをいいことに、普段のカメっぷりがウソのように、飛び込みからの3段コンボを決め、ピヨった相手に、近距離立ち中キックでフィニッシュを決めたりしていた。メガネは明らかに調子に乗っていた。

どんどん赤黒く、凶悪な顔になっていくヤンキーを、俺たちはドキドキしながら見守った。そして、50回目の負けが訪れた瞬間、ヤンキーは席を立った。その瞬間、メガネが俺の顔に飛んできた。正確に描写するとヤンキーの蹴りでメガネのかけていたメガネが俺の顔に飛んできた。

その刹那、ゴッという音がしたかと思うと、ヤンキーはメガネの顔を踏んでいた。ゲームの中で、メガネは開始12秒でヤンキーをKOしていたが、現実では、ヤンキーは0.1秒でメガネをKOした。

ヤンキーの靴の下で、メガネはピクりとも動かなかった。ヤンキーはチッっと舌打ちすると、足をどけて、手元の缶コーヒーをだばだばとメガネの顔にかけた。メガネは「うぅ……」とうめいた。ヤンキーはメガネの生存を確認すると、「調子のってんじゃねぇぞ」と呟いた。俺たちは一生涯、決して調子に乗るまいと心に誓った。

いつの間にかできた人垣の最前列に、俺たちはいた。ヤンキーは「チクんなよ」と俺たちに声をかけ、潮が引くようにできた花道を通って、帰っていった。コンパネにはヤンキーが置いた、5枚の50円玉が残されていた。50円玉は一枚も減らず、次の日まで残っていた。