昔、自社ゲームのアニメの音声収録に立ち会ったことがあって、その時のディレクターの使った言い回しにすごく感心した。びっくりした演技が欲しいところで、声優さんが、驚きというよりは、嬉しそうなニュアンスでセリフを演じてしまった。そこでディレクターが、
「すみません!嬉しい演技すごく良かったんですが、ココ、ちょっとびっくりした感じの『ほう』でお願いできますか?」
というふうにリテイクをお願いしたのだ。この発言の『ほう』がすごいと思った。補完すると、
「すみません!(台本に書いてなくて、あなたが考えてやってくれた)嬉しい演技すごく良かったんですが、ココ(こちらの意図と違います)、(あなたは素晴らしい声優さんなのでどんなニュアンスでも演じられることをわかっています。なので、)ちょっとびっくりした感じの『ほう』でお願いできますか?」
という感じがする。たったこれだけの短いセリフに、最重要なリテイクの要求だけでなく、
- 声優のミスにしないことで、テンションやノリをキープ
- どころか声優の意図を汲んだ上で褒めてノセる
- 台本にト書きがなかった脚本側の不手際がなぜかうやむやに
- 声優への信頼を演出
こんなにすばらしい機能がある。
相手にとってイヤなことを要求するのに、相手にはそんなにイヤに聞こえない、収録の雰囲気も悪くしない、すばらしい言葉遣いだと思う。俺もこういうセリフをさりげなく使えるようになりたいが……
だいぶ修練が必要だな、こりゃ。