回りくどい思い出し方

どうも俺はストレートな思考ができない。スーパーで奥さんに買ってきてと頼まれた野菜が思い出せなくて、「なんだっけ、ほら、あの、ファンタジーゾーンの7面に出てくる雑魚みたいな……、皇族っぽい名前で……」と延々と悩んだ結果、サヤインゲンだったりする。今日は、出張から帰ってくる空港で、さらに症状が重くなってることを自覚した。

何本か同時に飛行機が遅れてて、狭いロビーが大混雑。今日は夏休みの土曜日。すっかり待ち疲れた子供達は走り回り、寝てる大人も多数。そんなぐだぐだの雰囲気の中、トイレから戻ってくると、ちょうど中学生くらいの女の子がヨガを始めた。最初は、体を横にして手や足を伸ばす程度だったのが、徐々にエスカレート。しまいには複雑に足を絡ませたまま、片手で体を浮かせたりしてる。

いつの間にか退屈をもてあました旅行者達が彼女を取り囲んでいる。彼女は首をくりくりと回してちょっと一息つくと、うつぶせになって目を閉じた。体がみるみると反りかえり、足先で顔をはさむ。輪っかになった体が両手で支えられて浮かぶ。思わずため息が漏れる観衆一同。さらに、片手がゆっくりと外されて、床と平行に伸びる。少女、目を開けて周りを見回し、パチっとウインク。間。喝采

すごい、と心を奪われそうになった瞬間、まるで何かの啓示のように、みんながヨガ少女に釘付けになってる隙に、グルの置き引きが荷物をパクりまくってる画が浮かんだ。まさかな、と足下をみると俺のカバンがない。馬鹿な!まさか他の客も……、あ、違う。さっき用を足してるときに、台に置いてきたんだ。慌ててトイレへ駆け込むと戻るとカバンはまだちゃんとあった。

これはひどい。ヨガ→見とれる観客→グルの置き引き(妄想)→自分の荷物→トイレに置き忘れ、て。でも、なんとなく、このまま進行するとどうなるのか、楽しみでもある。