アメリカンボーイのホイップクリーム作法

子供とスーパーで昼の買い物をして店を出たら、店先で野球チームの練習あがりらしいユニフォームに身を包んだ中学生くらいの集団が、ホイップクリームを回し食いしていた。あれ、おかしくねえ?回し食いじゃなくて、回し飲み?いや、そこじゃねえ。まだ小さい三男を連れていたこともあり、帰路を急いでいたのだが、その異様な光景に思わず見入ってしまった。ここでいうホイップクリームとは、缶入りで、先っぽを倒すとバシューってクリームが噴射するやつで、スタバのクリーム噴射装置の携帯版、もしくはヘアムースの缶を想像して頂くと、おおむね正しい。ここアメリカでは、どこのスーパーでも売ってるメジャーな食べ物、だと思う。

で、俺の目の前で少年は、クイっと上を向き、缶を逆さまに持ち、口をあーんと開けると、至近距離でクリーム発射。ソフトクリームの盛りつけよろしくマキマキマキーっと口腔に注ぎ込んだのだ。少年は、驚きのあまり立ちすくむ俺と子供をちらりと見ると、さらに大きく口をあけて、その白い塊をまるっと含んでしまった。ぱんぱんにふくらんだ頬は、少年の喉の動きと共に、徐々に縮小している。驚くべきことにどうやら嚥下しているらしかった。ゴクリと最後の一口を飲み込んだらしい彼は、ベースボールシャツの袖でぐいっと口をぬぐうと、隣の少年に缶を手渡した。受け取った少年は、待ちきれないといった様子で、へへへと薄笑いながら同じように缶を口に持っていった。どうやら、一連の行動は、彼独自の奇行ではなく、彼らにとって一般的な行為のようだった。

そこで突然、うちの三男がぱっと少年の元に走り寄ると缶を指さして、「こえ(これ)、しゅーって!しゅごいねー!」とジェスチャー付きで俺に報告した。知ってる。見てたから。立ち去ろうと手を引いてみるも、よほど衝撃を受けたのか、まだ「しゅーって!しゅーって!」を繰り返している。正直、俺もすごいと思う。少年が困ったように俺をみたのきっかけに、思わず「それ大丈夫(good)なん?」と口をついて出てしまった。

彼は、愚問、と言わんばかりの表情で数回うなずくと、目線を俺から外さずにクリームを舌の上に盛りはじめた。おお、そんなバリエーションも。ゴクリ。

「すげえウマイよ(This is really good.)」

いやそうじゃなくて、という間もなく次の少年が缶を受け取る。その子は若干年下っぽく、手つきが少しぎこちない。オーソドックス(たぶん)に最初の子と同じように缶を口に持っていく。その刹那、おそらく兄と思われる背の高い少年に缶を奪われた。

「HEY!口を直接つけんなよ!」

「つけてねえよ!」

なるほど、ルールまで。注意された弟は缶を兄からひったくると、あからさまにというか、心配になるくらい缶を高く掲げた。しかし、鮮やかに、白いタンパク質は一直線に口に飛び込んでいった。え、なにその得意そうな顔。持ちネタ?と、ここで、再び兄がインターセプト

「3カウントまでだろ!」

「まははっへへえよ(まだ経ってねえよ)!」

そんなルールも。
ていうか、ああもうクリーム口から出てる!と、つい父親モードに。

「つか、ママは何て言ってんの?ほんとにいいの?」

「見つかると怒られる。」

やっぱり。ちょっと安心。

「風邪がうつるからダメって。」

いや、そこじゃねえよ!アメリカで子を育てるということは、果てしなく続くジャンクフードとの戦いでもあると強く実感した昼下がりだった。あと、誕生日パーティーによく出る原色がまぶしすぎるケーキに、みんなブシューブシューこのクリームをかけてたのを思い出した。おお怖い怖い。

過去記事:『アメリカで子供がケーキを食べたかどうか簡単に判定する方法』

■追記

このホイップクリームのオフィシャルのCMあった。

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