ゲームのデモ版の恩恵

E3とComic-Conが終わった。正直、ぎりぎりのスケジュールでプレイアブルのデモを用意しろって言われた時は、どうしようかと思った。しかしながら、いきなりえらそうに言えば、チームが成長してよかった。以下、俺の中間管理職的感想。

デモ前の状況を説明すると、いろんなパーツは入ってるけど、ゲームとして組み立てられていない状態で、チーム全体が若くてゲームをシップしたことない人が多い。俺の立場は一応デザイナだけど、チームのみんなをまとめるようなそんな感じ。実は俺もそれは初経験。

まず、俺自身が会社のいろんな都合から作らざるを得ないことを把握。これは駄々をこねてもしかたない。

次、各リードたちの説得。元々ぱつんぱつんのスケジュールを要求してる手前、デモ?ふざけんなの雰囲気まんまん。そんなところに俺が話したデモを作って幸せな理由は2つ。

その1、デモだけど、本番に出てくるチュートリアルステージを丸々完成させて出す。デモのためだけの要素は極力減らす。もともと作らなきゃいけないステージを作るんだから、何の問題もないはず。ついでにデモとして出せたらお得じゃない?

その2、会社にある程度の成果を形にして見せるのがプロ(彼らはこの言葉が好きだ)であり、結果、社内外からのこのチームの信用が高まる。そうすれば人員を増やすのも楽になる。人増やさないと終わんないでしょ?

これで概ね、納得してもらえたが、実は、ゲームの制作プロセスが3倍くらいに加速したことが一番の利益だった。

まず、公共の場にプレイアブルデモを提供するということは、製品版の雛形を作るに等しい。期限が先にあって、それまでにどこまで作りたいか。実際、それは可能なのか。無理ならどうするか。代案があるのか、あきらめるのか。この段階で、短い期間で仕上げるために、ゲームのコンセプトがかなり明確になった。いや、最小限のことしかできないがために、ならざるを得なかった。

また、プレイアブルということは、山積みの不確定要素に無理やりにでも形を与えないと完成しない。ゲームのシーケンスは?タイトルスクリーンは?敵の登場は?自分が死んだらどうなる?だいたい、それらはよくわからないから決められなかったわけで、とにもかくにも形を与えてしまうことで、圧倒的に製品版へ向けて判断がし易くなった。

そんな制作の過程で、期限内に終わらせようとあれこれ検討したことで、今まで非効率だったいくつかのプロセスが最適化された。最初からそうしろって思うけど、やっぱり必要に迫られないと、やらないし、そもそも非効率に気づかない。特に俺は。

もうひとつの大きな恩恵は、経験がそれほど豊富でないチームが、マスターアップの予行練習をできたこと。テスターとの付き合い方や、バグへの対処のしかた、デッドラインの2週間前には通常のデータ変更・追加は一切締め切って、デバッグしかしちゃいけないとか、さらにある程度安定した状態になったら、デバッグによって発生するバグ("side-effect"って言われてた)を防ぐために進行不能バグ以外は直しちゃいけないとか、デザイナはそれすらかいくぐって何とか面白くするための変更をねじ込むとか。デモでは、これらはめちゃくちゃだったが、だからこそ、本番前に体験しておいてよかった。

そして、自分たちの作ったものがメディアに出て、評価を受けた。これは単純にモチベーションを一気に高めてくれる。特に辛口評価で有名なサイトで褒められてたりすると、小躍りするほど嬉しい。俺は今でも、開発中のソフトのスクリーンショットや動画が出回り始めて世の中とつながった瞬間、理屈抜きで社会のダイナミズムを感じてテンションがあがる。いわんや新人たちにおいておや。

また、ネットにあがる動画や、会場を撮影したビデオなどから、お客さんがどう遊ぶかの反応がみれる。無料のフォーカステスト。うわー、あれやっぱわかんないかーとか、これが楽しいんだなーとか。製品に向けての改良にダイレクトに役立つ情報。

最後に、これまであまりに未完成だったために、チーム内でも最終的にどんなゲームになるのか意思統一がし辛かったところに、デモとはいえ、みんなが完成形を想像できるゲームで遊べるようになったのも良かった。どんなに書類を用意しようとも、5分のゲームプレイにはかなわないのだ。

とにかく、チームはいまや、設定された期限までに、外部からの依頼を受けて、みんなで検討した内容を、できる限りのクオリティで、納品したうえに、期待した反応を得た。しかも。そんな経験を2年とかかけないで1ヶ月(そう、1ヶ月で)で得たんだから、これはもう、素晴らしいとしかいいようがない。

これまで、デモ版って、ゲーム本編の制作を阻害するっぽいイメージがあったけど、ただスケジュールに入れておくだけじゃなくて、最初から、工程の一部として成り立つようにしてあれば、かなり有益なんじゃないかと思った。