宮本茂氏とのファーストコンタクト

任天堂がらみで思い出した。

数年前、僕らはE3のためにL.A.を訪れていた。最終日の夕方、せっかくだからと、観光がてら当時の上司と同僚の数人で、近郊のショッピングモールにでかけた。興味のある店がバラバラだったので、いったん別行動にして、1時間後に集合することにした。

ところが、集合するにも、アメリカの知らない店ばかり。目印を決めかねていると、上司がフロアマップに31アイスクリームを見つけた。知ってる!アイス、アイス!慣れぬ異国になじみの店を見つけて、僕らはしばらく盛り上がった。

「よし、じゃあ、あの31アイスの前に集合ね。」

別れる直前、ふと気づくと、目の前の店の入り口に宮本茂氏が立っていた。確かに、E3終了後、会場近くのモールとあれば、彼がいてもおかしくはない。

「あー、宮本さん!」

メンバー中、ただ1人、氏と知り合いだった上司が声をかける。

「お1人ですか?」

「いや、待ち合わせをしとるんやけれどもね」

待ち合わせ?ふと、目を上げると、僕らの目の前にある店は「GUCCI」のブティックだった。思い返せば「GUCCI」はたしかに視界に入ってはいた。しかし、あまりに世界が違うせいか、カウントに入らなかった。まさに盲点。それは軽い驚きだった。

GUCCI……、GUCCIだ。一人一人の口から、つい漏れてしまった呟きが、ほぼ同時に発せられたせいで、ぎょっとするほど大きな声となって宮本氏に届いてしまった。彼は、少し照れたように、

「いや、他に店、知らんもんで」

と、僕らに仰られた。宮本氏と別れた後、上司が、

「やっぱ宮本さんは違うよな、同じ知らないでも、選ぶのが『GUCCI』だもんなー」

と、つくづく呟いたのが印象的だった。

あれから数年、数本のゲームのマスターアップを経て、僕はめぐりめぐってアメリカで生活するようになった。そして、先日、同僚の方々が遊びに来た時に、無意識に選んだ待ち合わせ場所は「チーズケーキ・ファクトリー」だった。僕は、少し大人になったのだろうか。「GUCCI」で待ち合わせまでは、あと何マイルだろうか。