お前、ゲーム1000本クリアしたか

日本でお世話になっていた先輩デザイナが出張でアメリカに来て、いろいろとゲームについての話をした。中でも一番印象に残っているのは、彼がファミ通のプラチナ殿堂入りしたソフトを全部クリアしていると語っていたことだ。

SF者は1000冊読んで一人前らしい(http://d.hatena.ne.jp/matakimika/20060414#p1)が、彼に言わせると、ゲーム企画はゲームを1000本クリアして一人前らしい。


彼は俺に問うた。

お前、ゲーム1000本クリアしたか、と。


俺は答えた。

おそらく半分もないでしょう、と。


彼は俺に言うた。

お前にゲームを語る資格は無い、と。


まあ、要約するとこんな感じ。ずいぶん乱暴なようだが、1000本ゲームをクリアしていることがゲーム制作の上でものすごく有益だろうということは、同意できる。僕はゲーム制作中に、ゲームプレイによって発生する「気持ちよさ」を他人に伝えるのに、もっともノイズの少ない方法は、過去にプレイしたゲームの体験を共有することだと思っている。

ゲームを遊んだ時のフィーリングを、自分なりにゲーム制作に活用できるようになるまでの時間を「クリア」として、パズルゲームしか遊んだことがない人とも、エロゲーしかやらない人とも遊んだソフトの体験を共有できる本数の基準が「1000本」と解釈すると、その先輩の主張も荒唐無稽なものとは思えない。いやむしろ納得できる。

先日、ミーティング中にこんなことがあった。若いデザイナのアイデアについて、「ただ、ボーナスばらまくだけじゃ、ノーリスクでしょ?それじゃ、頭を使わないただの作業になっちゃうから、ハットリくんのチクワ取るヤツみたいなかんじでリスクを混ぜたほうがいいじゃない?」とアドバイスしたのだが、まったく通じなかったのだ*1。僕としては、ゲームデザインについてのみならず、シュポポポポンとチクワが次々体に当たる気持ちよさまで含めて説明したつもりなのだが、どちらも相手にはまったく伝わらなかった。

数年前に参加したあるアクションゲームは、プログラマとプランナとアーティストの大部分が同じゲーム体験を共有していた希有なプロジェクトで、すごい勢いでゲームができていった。なんせ、プレイヤの攻撃の仕様について、「いや、そこはリュウのしゃがみ中パンっていうより、春麗のしゃがみ中パンの感じ。」で、アーティスト、プログラマともに通じるのが当り前だったのだ。両者の違いがわかるだろうか。どちらもしゃがみの中パンチだが、リュウの短く太い印象のしゃがみ中パンチと、春麗のヌルッと前にのびる感じのしゃがみ中パンチの違いが。アーティストはその「感覚」をアニメーションに落とし、プログラマもその「感覚」が再現できるようなスクリプト言語を組み、見事に、そしてあっという間に、僕らの目指した「感覚」が再現される。

スト2以外にも、「ロックマンシリーズのジャンプの感覚」だったり、「くにおくんドッヂボール部のココナッツシュートを出す時のジャンプの頂点でボタンを押す感覚」だったり、「スマブラの相手のスマッシュを先読みして回転避けで後ろに回り込んでおもくそ大スマッシュの感覚」だったり、共有していたゲームの「感覚」は計り知れない作業の効率化をもたらした。この「感覚」の共有抜きで、いちいち仕様書を書いていたら、いったいどれほど時間がかかったろうか。

もしこれがアクションじゃなくても、同じことだと思う。ポケモンを例にあげると、コンセプトのレイヤーでは、「このゲームで目指すところは、『昆虫採集』です。」と伝えうるかもしれないが、実際のゲームプレイのレイヤーでは、それでは通じない。やはり、「ほら、メガテンでさあ、レベルあげるっつーより、仲魔集めのほうに熱中したりするじゃない?」みたいな会話から、ゲームプレイの「感覚」を伝えるほうが、ノイズが少ないはずだ。僕は昆虫採集というと、山で虫におしっこをかけたことばかり思い出す。

しかし、言うまでもなく、これは同じゲームをプレイしたもの同士だけで通じるコミュニケーションでもある。そして今、このコミュニケートをできる関係がどんどん失われていっている気がしてならないのだ。なぜなら、僕の遊んだゲームを知らない世代がどんどん入社し、なおかつ、僕自身を含む、ゲーム制作をする人間がゲームで遊ばなくなってきているから。

1000本達成はいつになるかわからないが、とりあえず、自分が始めないと。僕がちゃんとゲームを知っていれば、必要に応じて必要なゲームを遊んでもらうこともできるかもしれない。わかるのは、意識してゲームを遊ばないと、自分が最先端のゲーム制作についていけなくなる予感だ。

というわけで、若かりし日の「ロストワールド」の服買いクリアの再現もいいけど、途中になってる「ゴッド・オブ・ウォー」をクリアして、「TOMB RAIDER LEGEND」もクリアします。押忍。

*1:言うまでもなく、ファミコンの「忍者ハットリくん」のステージクリア後のボーナスタイムのこと。鳥居からグラディウスの1面の火山よろしく吹き上がるチクワの中に、触れると一定時間動けなくなる鉄アレイが混じっている。