サンフランシスコで就活しました

というわけでちょっと前に6年務めたシリコンバレーの某老舗ゲーム会社から、サンフランシスコにある設立4年くらいのモバイル向けゲームアプリ会社に転職しました。理由や経緯はおいといて、とりあえずここではその就職活動中に感じたことを書いてみます。ちなみに僕の就活経験ですが、2001年の新卒時に日本で1度、6年前にアメリカの同じくベイエリアで1度とかなりの初心者です。前回の転職は軽い気持ちで会社に呼ばれたらそのまま面接、3日後採用でしたが、今回はそんなこと一度もおこりませんでした。

わかったこと

さっそく結論ですが、僕の今回の就職活動で学んだ一番大きいことはこれ、

  1. 自分が会社を選ぶのではなく、自分を選んでくれる会社に出会うまで面接を受けまくるしかない

追記)ベイエリアの人たち(少なくとも自分の見聞きする範囲では)がわりと頻繁に転職するのは、これも大きい理由かもなーと実感しました。つまり、必要に迫られてから就職先を探しても見つからない可能性があるんですよね。今回の俺のように。だったら、どこかのリクルーターが自分の経歴をみて声をかけてきたタイミングで移ったほうが確実かもなーと。

ついでに2つくらい挙げるなら、

  1. コンソール用ゲームの開発からモバイル端末向けに移行したことについて100%必ず絶対にしつこくほじくるように聞かれる
  2. 面接の半分以上は電話でやって、よっぽど見込みがないと会社での面接*1に呼ばれない

こんな感じでした*2。ちなみにコンソールからモバイルへの転向についてたくさんの会社で聞かれたことと僕の回答は別のところにまとめる予定です。

正直、なめてました

はじめる前までは、さーてどこの会社に入っちゃおうかなーくらいに軽く考えてました。どこかでも話しましたが、モバイルにいくかコンソールにいくかどっちにしよーかなーとか。そして実際、レジュメ(履歴書)を送った会社からはほぼ電話がかかってきました。早いところは翌日、朝だしたら当日の夕方かかってきたこともありました。もうなんか食いついてきた食いついてきた!って感じじゃないですか。

でも、スクリーニングと呼ばれる、実際に会社にいってやる面接の前段階の電話面接で落ちまくるわけです。いや、ダメだったといってくれる会社はむしろありがたいです。80%くらいは、「次があれば連絡するから」って形式で、返事を待ったままフェードアウトです。

門前払いのケース

いやー、これは地味にショックでした。それなりに自分に自信がありましたから。でもまあ落ちこんでてもしょうがないんで、ダメだった連絡をくれた人には片っ端から理由を聞きました。僕が受けた限りではスクリーニングには2種類あって、ひとつはリクルーター*3がする最低限の確認です。希望年俸、ビザ or グリーンカード、住所、遠いなら引っ越しできるか、などなど仕事以前の話をします。長くても30分もあれば終わります。このスクリーニングでダメな場合、答えはほとんどこれでした。

「ぶっちゃけあなたに見合う給料を払えない」

まー納得。キャリアも15年目となると業界で決まってる最低これくらいだろって給料もそこそこ高いわけです。デリケートな話なんでふんわり書きますが、すっごい給料さげていいならいいけど...という会社と、うちではそういうことをしないという会社がありました。

最初の電話面接で落ちること10社以上

で、次の段階のスクリーニングはその募集の主かそれに近いポジションの人がするやつで、こっちはもっと突っ込んだ質問をします。時間も45分から1時間ほどかけます。応募時に基本的な情報を入力してる場合は、いきなりここから始まることも多かったです。内容は担当者によっていろいろですが、上に書いたコンソールからモバイルへの移行についての他でおおむね共通してるのは、自分の経歴を含めた自己紹介、自分のゲームデザイン哲学、最新タイトルのゲームデザイン分析、そしてどんなゲームのどこを担当してどれくらい経験があるか、などでしょうか。志望動機もまあまあ聞かれましたが、なぜ弊社に?っていうよりはなぜコンソール?なぜモバイル?って聞かれ方がほとんどでした。で、この段階でほとんど落ちました。10社以上?いやー、へこみましたわー。聞けた理由はすべてこれでした。

「今チームが欲しいポジションにあわない」

ま、どんな理由で落とすとしてもこういうと思うんですが、いやいや、これも納得ですわ。何でかっていうと、自分も前職では人が欲しいときに面接とかしてたわけですが、欲しいポジションにぴったり合う人ってほとんどきませんでした。一応大きめな会社にいましたし、募集かけると全米から応募があるわけですが、「年俸750万くらいで、アクションアドベンチャーレベルデザインの経験があって、コミュニケーション能力に問題のない人」って条件でスクリーニングしてもらうと、これがなかなかこない。これでも最低限のつもりです。できれば近接攻撃に特化したゲームの経験があればいーなーとか、MAYAでレベルデザインしてたらいーなーとか、今世代機(Xbox 360, PS3)の開発経験があるといーなーとかあるんですが、そこまで言っちゃうともうもうぜんっぜんこない!会社でやる面接まで進む人が1ヶ月にゼロとか普通にありました。はい。欲しいポジションに対して経験がありすぎる(=給料が高すぎる)とか、逆に経験がなさすぎるとか、不思議なほどぴったり合う人ってなかなか見つからないものでした。

電話面接で一番聞かれること

そんなわけで、募集要項にはかなり細かく希望がのってるようにみえますが、それは実は最低限であることがほとんどでした。下は2014年6月の時点でのEAのモバイル部門の応募における必須事項です*4

  • 3+ years of experience in mobile game design, 7+ years as a game designer
  • Experience with Unity strongly preferred
  • Experience with running a live service game strongly preferred
  • Prototyping and wire-framing experience
  • Strong understanding of both premium and free-to-play games
  • Strong understanding of the proper role of community in live services
  • Ability to generate and refine engaging game mechanics and themes
  • Expertise with balancing, including but not limited to, game progression, economies, and reward structures
  • Previous experience within a highly iterative environment, especially focused around touch mechanics on small devices
  • Solid understanding of usability testing best practices

で、送られてきた履歴書やカバーレター(履歴書に書ききれない応募動機などをまとめた自己推薦文)を読んでこれらを満たしてそうな人にだけ、自分のプロジェクトにフィットするかどうかの確認を電話でするわけです。面接する側も制作中のプロジェクトに関わる話なのでwebにはあまり書けませんし、受ける側も普通は書類で細かいことは書かないので、自然と電話でしか話せない開発経験の詳細についての質疑応答がものすごく重要になってきます。

自分が面接官だった経験からいうと、レベルデザインやってたと書いてあっても、実際に話を聞くとテストプレイしただけだったり、カットシーンを組み込んだだけだったりする人も平気でしますし(いや重要ですが)、少しかじったことはあっても、プロジェクトによって役割がバラバラで結局何が得意なの?って人も多くみました。

自分の経験はコンソールのメインストリームには売りにくかった

さて、今回は面接を受ける側です。各社のリードやディレクターと電話面接をしていてすぐに痛感したのは、僕の経験が現在のビデオゲーム・モバイルゲーム業界でそんなに使いやすいものじゃないことでした。

まっさきに理解したのは、FPS/TPS問わず、シューターの開発にはまず呼ばれんなー俺、ということでした。彼らが聞くのはシューター開発経験の有無じゃなくて、「どんなシューターの」「どんなパート」をやってたかでした。ちなみに僕のリードデザイナーとしての経験は、今や絶滅寸前のコンバットアクションゲーム2作と、モバイルゲーム2作です。

「カバーシューターは?」
「ないです!」

マルチプレイヤーモードのリードを探してるんだけど経験ある?」
「オンラインRPGの下っ端なら!」

FPSとTPS両方やったことあるといいんだけど」
「高速で走りながら撃つオートエイムの○○○ってゲームなら!」
(カチャカチャと検索してる音)
「……(無言)」
「ハロー?」

世の中には作品の数に比例してシューター経験者は比較的多くいます、ましてや、僕が仕事を探していたアメリベイエリアには文字通り世界中から人が集まってくるわけです。なんで、シューターの経験がない僕(しかも給料高い)をチームに加えるにはよっぽどの理由がないといけないわけですね。はい、消えた。

モバイルもだめ

次はモバイルですが、こちらも作ったことがあるのが2作だけとなると、モバイルゲーム経験だけでいえば僕より上がたくさんいるわけです(しかも安い給料で)。あと、シリコンバレー、サンフランシスコは現在の形のモバイルゲームの黎明期から開発が盛んなところでもありまして、かなり多くの人材がいるような印象がありますね。ええ、こちらも望み薄です。というかだめでした。

どうですか?詰んだ感ありますよね。俺にはありました。

さらに電話じゃ特技がつぶされて

あと追い打ちをかけるように厳しかったのが、英語が第一言語でも流暢でもない僕が英語圏で生き残る術であるところの「何でも図にする、絵に描く、作ったものを見せる」(参考:IDA-10 氏2万字インタビュー - LYEのブログ

)が、電話面接ではまったく使えなかったことです。一応、事前にパワーポイントのファイルを送っておいても、電話面接の時に相手にみてもらえたことは1度しかありませんでした。

もう一度原点に

というわけで、冒頭のとおりどこにいこうかなーとか軽く構えていた僕は、認識を改めざるを得ませんでした。そして、今一度自分のやりたいことと、強みを熟慮せざる得ませんでした。

うーん、やりたいこと…

「チームのクリエイティビティを増幅させる触媒のような存在になりたい」

でででたー、ポエムおじさん!いるいるそういう人!俺だ!俺だったよ!

ええと、強みですか...

「コンソールの開発経験がオンラインRPGのアイテムからレベルデザイン、コンバットデザイン、システムデザイン、UIデザインまで豊富で、キャラクターが有名なゲームを作ったこともあって、コンバットゲームのリードデザイナーとして中規模(40-80人規模)のタイトルを2本やったことがあり、F2Pのモバイルゲームを立ち上げから運営までやったこともある」ことかなー。

うわー、典型的な「いろいろやってるんだけど専門性がなくて結局何が得意なの?って聞かれちゃうタイプの人」じゃーん!ごめん完全に俺だった!

拾うなんとかあり

しかしですね、結局1時間とか電話でプロ相手に話すわけで、いまさら自分を偽って売り込むのなんて不可能なんですよね。というわけで腹をくくって、むしろいろいろやってたのが自分の強みだ!と開き直った上に200%くらいポジティブに再解釈して、締め切りまで3ヶ月だろうが、ちょっと締め切り過ぎちゃってようが、どんな状況でもチームを煽ってゲームを面白くできるのが自分の特技です!レッツパーティ!などとひたすら自分の価値を信じて売り込み続けました。

……その結果、「キミのような人を探してた!」って会社がベイエリアに3社ほどあったわけです。100倍くらい適当にぼかしてますが、まあこんなかんじ。

「新しいタイトルの立ち上げでプロトタイピングのためにコアメンバーを一人だけ増やしたい」
→いろいろできる人を探してた

「キャラクタービジネスの一部としてゲームを作りたい」
→有名キャラクターを扱ったことがある人を探してた

「データ主導から、ゲームデザイン主導のゲーム制作に移行したい」
ゲームデザインについて人を教育できて、なおかつ十分なキャリアがある人を探してた

あった!良かった!ただ、どこもエントリーの段階ではまったく期待されている内容が予想できませんでした。電話面接でもいまいちわからず、実際に会社にいってNDAにサインして具体的な話を聞いてはじめて自分に求められているものがわかったのです。そして一度会社での面接に呼んでもらえればこっちのもの。開発に関わったゲームの動画をまとめたプロモーションビデオを流して、架空のゲームの企画書、仕様書、外注への指示書のサンプルなどここぞとばかりにパワポ芸をみせつけつつ、明確になった自分への期待に答えられることを過去の実例を挙げて売り込むのみです。

ちなみにオンサイトの面接に呼ばれると、自分の場合は入れ替わり立ち替わりいろんな人と最低5時間、長いと2日にわたって10時間拘束されました。

もう一度結論

なので、とにかくもう受けまくるしかねえなあ、と。そう思いました。だってわかんないんだもん。だいたいは募集要項にかいてあるけど大事なところは隠してるんだもん。こっちから選びようがないっすわ。で、向こうから選ばれたら、改めてこっちから選べばいいと。

あと、最初にほとんどの場合、返事は次に進めるときだけくるって言いましたが、しばらくしてからいきなり電話がかかってくることも多いです。なんで、今この瞬間もどう?って電話がある可能性もあります。ていうか昨日もかかってきました。遅いよ!まあ、まじめな話、とりあえずエントリーしておけばあとにつながるかもしれないっていう意味で、いろいろ受けまくるのはそんなに間違ってないと思います。はい。

おまけ(今回の就活に使ってたサイト)

no title
Glassdoor Job Search | Find the job that fits your life

どちらも自分の職種を登録すると定期的にマッチする求人情報をメールで送ってくれます。微妙に送ってくる情報が違うので両方登録するといいと思います。基本的にLinkedInはこれ経由でリクルーターが声をかけてきまくる就職用SNSで、Glassdoorのほうは、気になる会社の平均年俸とかが知れるサイトです。

追記)

LinkedInは詳細なプロフィールを載せてれば載せてるほどリクルーターからのアプローチが来やすくなります。僕だと最低でも1ヶ月に1度はどこかから声がかかる感じです。あと、個人で会社とマッチングしてくれるフリーのリクルーターと契約してる人もいます。成功報酬だったり定期的に払うタイプだったり基本的に有料ですが、その分企業の求人ネットワークに密にアクセスできたりするので、業界をまたいで就職活動できる人なら良い選択肢かもしれません(と経験者に教えてもらいました)。

*1:on-site interviewといいます

*2:あくまでも僕が受けたベイエリアのゲーム会社、しかもゲームデザイナー職の話です

*3:日本で言ういわゆる「人事」というよりは、会社が欲しい人材を捜して雇用するためだけのスペシャリスト

*4:これがすでに発表済みのタイトルだったりすると、より詳細に欲しいスキルを列挙してあります。

5億DLを達成したキャンクラが運ゲーでなければならない理由

ひっさびさにゲーム制作関係の話です。2年半ぶりです( ソーシャルゲームとか無料ゲームとかゲームの未来とか - GAME NEVER SLEEPS)。誰じゃー、わしを起こすのはー。はい、キャンクラです。スウィート。パズドラは褒めやすいですけどキャンクラことCandy Crush Sagaを制作者側から褒めてる記事ってあんまり観測範囲でみないので書いておこうかなーと思った折りにこんな記事が。


英King.comの人気スマホ向けパズルゲーム「Candy Crush Saga」、5億ダウンロードを突破 | vsmedia


いやー、5億ですって、5億。これがどれくらいって、日本の全国民が光の戦士になって3回転生を繰り返して遊んでも足りないくらいですよ。すごい、すごすぎる。

というわけで表題の件ですが、答えは「キャンクラは基本的に全年齢全人類を対象にしたソーシャルグラフを利用したソーシャルゲームだからである」というところにつきると思います*1

では、なぜこのソーシャルゲーム運ゲーじゃないといけないのかをつらつらと書いていきますね。


最初にあなたのFacebookのフレンドを想像してみてください。家族、会社の同僚、幼なじみ、その配偶者、よく知らない外人。狙い定めた狭いターゲットではなく、幅広い人間が遊べなければならないことがわかると思います。そんな子供からお年寄りまでが遊べるゲーム。

そんな完璧なゲームがあるのでしょうか?思いいたるのは任天堂社のタイトル群かもしれません。でも、このゲームのプラットホームはゲーム機ではないのです。ゲームをする意識すら持たずに手にする可能性がある携帯電話やFacebookです。

精密なアクションはウェブブラウザ、タッチデバイスに向かず、脳年齢測定、体重計測、いずれも不可能。ストーリーに対する理解は期待できず、複雑なルールなどもってのほか。さて、誰もが簡単に遊べるゲーム。簡単というのも、また難しい。簡単にすれば簡単すぎると人は去りますし、難しくすれば自分には難しいと、やっぱり人が去っていきます。

はたして、そんなものが作れるのでしょうか?


エス


その答えがランダムに依存したパズルゲームです。それこそがゲーマーから運ゲーと貶されるキャンクラです。

うまいプレイヤーがクリアできる確率は当然高いです。でも、へたなプレイヤーでも数をこなせばラッキーでクリアできます。つまり子供からお年寄りまでプレイできるのです。なぜなら運ゲーだからです。

シンプルなパズルゲームなんで、複雑なルールも、好みの差が大きいストーリーも、膨大な組み合わせが可能なスキルツリーも、数百のキャラクターもいません。つまり子供からお年寄りまでプレイできるのです。

1ヶ月詰まっていた350面をクリアしたあるプレイヤーはこう言いました。

350面まで進んでいてもこの感想。なぜなら運ゲーだからです。

初日以降も継続して遊ぶ人が極端に少ないのが無料で遊べるゲームの特徴です。ジャンルや国によって異なりますが、大きな傾向としては少し遊んでやめるプレイヤーが大多数です。その割合は80パーセントとも、90パーセントとも、いやそれ以上ともいわれています。そして一度やめたら復帰の可能性はほぼない現実があります。

でも、これは運が重要なカジュアルなパズルゲームです。

  • あとから友達がはじめて、そして自分も誘われたから。
  • 飲み会で自分が100面くらい先に行ってて自慢したくなったから。
  • キャバクラ嬢に、解けない面があると頼られたから。
  • 気になるあの人から助けを求める通知が届いたから。
  • 見下していた知人が自分を抜かしていってなんか悔しくなったから。

1回でも遊んでいれば、もう一度だけ起動しようかなーと思う機会が何度も訪れるはずです。でも、なぜこう思いやすいのでしょう。そう、ただの運ゲーだからです。遊ぶのに必要なのはちょっとの時間と、運だけだからです。そして、運さえよければ、詰まってた面もクリアできるはず、後から抜かしていった友達だってあっという間に抜きかえせるはず、と身体が覚えているのです。

そしてそう思ってしまったなら、どのデバイスでも進捗が簡単に同期するようになっているので、きわめて気軽に再開できるようになっています。誰でもいつでもどこからでも帰ってこられるゲームでなければならないことを、King社は自覚しています。AndroidでもiOSでもwebブラウザでも、コンパでも電車でも会社の昼休みでも人生に疲れた夜でも。

久しぶりに起動したらアップデート必須。アップデートしたら今度は別のダウンロードがアプリ内ではじまる。ホームスクリーンに見慣れないアイコンやなじみのないイベントバナーが所狭しと並ぶ。知らないキャラだらけで知らないルールが横行してる、そんなことは絶対に起こりません。


……とここまでが、どれだけゲーマーから貶されようと馬鹿にされようと5億ダウンロードを達成したキャンクラの基本的なデザインディレクションの話になります。これ以降は、

「これは運だけじゃクリアできない!」

「これをクリアできるのは俺だけ!」

という意識を持たせてくれる絶妙なゲームルールと、学習曲線・成長曲線の妙だったり、運が絡んでなければ攻略を積み重ねていけるけど、運を積み重ねるのは意図的にできないから金で解決してしまう購入への導線などなど、いろいろあってすごいんですが、とりあえずここまでにしときます。

手抜きに見えるかもしれませんが、レベルデザインも本当はすごいんですよ。なんせ運ゲーであることを担保しながらも、プレイヤーには自分の実力でクリアできたと思わせないといけないんですから。

あとはあれですねー、次世代機。もちろん、このまんまじゃないですが、この流れがコンソールに関係しないわけがないので、いろいろあれです。あれ。

まー、実はポッドキャストのほうではこんな感じでいろいろしゃべってますので、もし興味があれば覗いてみてください。みやおかさん(id:miyaoka)が素晴らしい文字起こしをしてくれているので、テキストで読むこともできます。

*1:。Facebookに接続しないで一人で遊んでます!っていう人は、貴重な金の卵ではありますが、このゲームの制作者にとっての本番はFacebookにつないでからでして、日々ひしひしと接続へのプレッシャーを感じながらプレイなさってることかと存じます。はい。

妻が小説を終わりから読む理由

最初にいっておくと、別に彼女はネタバレに無自覚ではなく、俺が彼女にネタバレされて嫌な思いをしたことは一度も(たぶん)ないし、その是非や良い悪いを語りたいわけでもない。きっかけはポッドキャストをいっしょにやってる@miyaokaさん(id:miyaoka)のこのポスト。

文中のめぐみさんは僕の妻で、イダテンさんは僕なんですけど、前々からなぜ彼女が楽しみにしてる長編小説を終わりから読むのか気にはなっていた(ちなみに長編アニメーションでも同じ行動をとる)。

ここではてな社にカチこんだこともある@kiyosick(id:kiyo-shit)さんから理由になりそうな情報が。

うーん、性差の話なのか?直接会って話している僕の印象とは何か違う。そんな普通に先を知りたい感じじゃない。こんな感じでただならぬ覚悟をもって結末を知りたがるのだ、妻は。

もう少し聞いてみるとこんな答えが。

でも、これは僕が聞いて返ってくるいつもの答え。やっぱりそれは二回目以降の楽しみと下位互換があるのでは。ラヴフール管理人、ポッドキャストゲームモゴモゴ」主催のたかなべさん(id:takanabe)からも同じようなリプライがくる。

他にもいくつか近いリアクションを散見する中、久谷女子メンバーの@negimisoさんからの援護射撃が。

なるほど、これは納得。………しかし、どうも何か、それだけじゃない気がする。そうなんだけど、やっぱり積極的に最後を知りたい理由には思えない。ふと元になった発言の「結末を知らないと安心して読めない」の部分が気になった。なぜ安心したいのか。そういえば出会って以来十数年この問答を繰り返してきたけど、その理由は聞いたことがなかったかもしれない。すると、予想外の答えが返ってきた。

「先が気になると内容に追われて、はじめてページを開いたときの文字の配置を楽しんだり、じっくり行間を読んだりできないのが嫌。」

なるほど。完全に納得。

でも、これだけでわかるのは、僕が彼女の配偶者としてたくさんの創作物を一緒に読んだり、観たり、聴いたりしてきたからだと思う。どういうことか彼女自身が挙げた小野不由美氏の十二国記シリーズで補足してみる。

妻の下に十二国記の新刊が届いた時、大好きな「主上*1が一字一句まで精査して練り上げた物語の隅々まで味わいたい気持ちがうまれる。単語ごとにその言葉が選ばれた理由を考えたり、たった一語から一気に頭に広がる架空の国の情景にしみじみと浸ったり。それだけじゃない。彼女はページに配置された異世界の漢字のバランスの美しさを愛でたり、言葉の響きの調和まで音読して楽しむ。彼女にとって、初めて本を手に取った時の喜びはこれらにこそ、一番大きくあらわれる。

そして、その気持ちは、ストーリーを追いたい気持ちと相反してしまうのだ。つまり、「結末を知らないと安心して読めない」。早く先が知りたいけどゆっくり楽しみたい。心は千々に乱れその葛藤は大好きな作者の新刊を前に、もはや大きなストレスとまでなる。始めて手に取る本なのにそんな気持ちで読みたくない。

彼女は何回でも同じを本を読む。十二国記シリーズは十回や二十回じゃきかないし、彼女が小さい頃から親しんできた古典や童話はいうまでもない。結末を知ることはこれから何十年にわたる上記の楽しみの、ほんのわずかな一部でしかないのだ。

だから、最後から読む。それが、彼女の感性が辿り着いた大好きな本に対する作法だ。そしてそれは彼女にとって完全に、正しい。


というわけで僕は、彼女との間で幾度となく行われたネタバレ論争の結末を迎えた。また、彼女と出会い*2、そして結婚を心に決めたことを思い出した。夜の散歩を好み、雲のない夜空を見て蒼空といい、枯れ葉を踏む音を楽しむ彼女は、ビデオゲームしか知らない僕とはまったく違う世界を生きていた。僕は、彼女の感性そのものが美しいと思った。その世界を少しでも共有したくて、これからも一緒に人生を歩みたいと思った。

それなのに、ついつい彼女のネタバレ好きにポカーンとしてしまった。でも、これこそが僕が妻を愛する理由のひとつであり、結婚の楽しみじゃないか。15年間の結婚生活は、少しずつそれを当たり前にしてしまっていたけど、まだまだ僕の知らない彼女がいた。彼女が少しも変わらず美しい感性を持ち続けていることを確認できた。そんな彼女と生活を共にすることができるなんて、僕はなんて幸せなんだろうか。神様、ありがとうございます。

願わくば、彼女が大好きな作者の新刊を3冊ずつ買う理由も知ることができますように……。

https://pbs.twimg.com/media/AyibExDCAAARNCB.jpg

*1十二国記では国王を主上と呼ぶのにならってファンの間ではそう呼ばれることがある

*2:妻との出会いに関するポエムはこのへん→ 偶然と初恋と - GAME NEVER SLEEPS

アメリカ西海岸でみる物乞い

最近、↓こんな物乞いに遭遇しまして

よく考えたらアメリカに来てから物乞いに対してかなりの確率でなるほど、と感じていたことに気づきました。つらつらと挙げてみようと思います。

  • 学校の近くのスタバの前に立つタイプ

登校前に子供つれてコーヒー買う人が結構いるんですが、店をでるとお金くださーいって立ってるんですね。親としては子供の前で困ってる人を無視するのは良くない気がするわけですよ。かといって「元気?」とかいうのも何か違いますね。結果、なんとなく小銭をあげてしまう、というシナリオに導かれます。一回やりすごしても、毎日立ってるので、ある日目が合ってしまい、なんとなく観念してというパターンもあります(僕です)。

  • ガソリンスタンドでガラスを勝手に拭くタイプ

気づくと窓をごしごし拭いていて終わると何かくれーっていわれるのですが、なんとなく対価を払わないといけない気がしてついついお金を渡してしまいます。最近気づいたのですが、彼ら拭く前に断られないように給油したまま車を離れるとどこからともなく現れてますね。いきなり窓をびしょびしょに濡らしてきてうわーって思ってるところに乾いた紙で拭いてくれるのでついつい見守ってしまいますが、なぜか自分で頼んだ感がさらに高まるので注意が必要です。特に深夜にエンカウントしてしまうと逃げ場がない感じでさらに効果的だと思いました。

  • ドライブスルーの窓口の隣に立つタイプ

具体的にはサンフランシスコのHowardと9thのとこのバーガーキングですが。メニューの前で注文して、窓口で支払いをして食べ物を受け取ると、すぐ隣でおつりの小銭くれーって待ち構えてます。あまりのテンポの良さについレシートに握り込んだ硬貨を渡してしまいます。ドライブスルーなので小銭をぴったり渡したりすることが少なく、大抵はおつりが発生してるのもポイントです。ただし、普通は支払い窓と食べ物の受け取り窓が違うので、店を選ぶ作戦です。

  • 大きい交差点に立つタイプ

西海岸ではかなりよく見るんですが、アメリカの他の地域でもいるのかな。信号待ちしてる人によく見えるところで段ボールで身の上を書いて掲げて誰かがお金をくれるのを待ってるタイプです。窓を開けてくれる人がいると、素早く近寄ってお金を受け取りにいきます。逆に言うとその人がいるところであちーなーとか言って窓を開けると近寄ってきてしまい、なんかあげないといけないような気になるので要注意です(僕です)。身の上話はシリアスなものとは限らず、シンプルにHELP!とだけ書かれたものや、今夜酒が飲みたい!と書かれたものまであり楽しいです。きっと秘密裏にシティハンターに仕事を依頼してる人もいると思います。

  • ゴミを売るタイプ

Mission St.にある汚い中華で食べてた時に遭遇した人。サンタよろしくゴミ袋を担いで店に入ってきて、テーブルを回って中身を売りつけてきます。一応客を見て品物を出すのが面白くて、俺はメガネを差し出されました。誰も買いませんでしたが、店員からご飯をもらって帰っていきました。この店に限らず、物乞いの人がコーヒーとか食べ物とかもらってくのをみるとズルい!と感じます。

  • レストランの前にいるタイプ

アメリカだとレストランで食べきれなかった食事を普通に持って帰ります。中にはメインを残して容器に詰めてもらい、おもむろにデザートを注文する人もいます。というわけでレストランからは結構な確率で食べ物をもって出てくる人がいるんですね。サンフランでそこそこ良いレストランだと、大抵バレーパーキングっていって、係の人に車を駐めてきてもらう感じになってます。帰りは自分の車を持ってきてもらうわけですが、まあ待たなきゃいけない。そこにささっと現れてなんかくれーってなると、まあお腹いっぱいだし、持ってるご飯をあげてしまうという、なかなかに知的な作戦。僕は好きです。

  • 犬を有効活用するタイプ

バークレー付近は犬連れのホームレスが多いのですが、動物病院の前で病気のこの子に注射を打ちたいからお金ちょうだいと言われると、かなりグッときます。特に子供の前だったら素通りできる人は少ないでしょう。動物と病院の前という組み合わせはかなり強力で禁じ手にして欲しいくらいです。

  • 正面から食べ物をもらいにいくタイプ

サンドイッチなどを売るデリとよばれる店によく見られます。普通に入っていって「ください」ってお願いするんですね。僕が10回くらい見た限りではみんな速やかに食べ物と、あと飲み物をもらってました。顔見知りになると店の外からハンドサインで空腹を訴えると店の人が外に届けるケースもわりとよく見ます。ていうか「これ、その人に渡して」って頼まれたりしました。

なんかまだまだあるような気がしますが、とりあえずこれくらいで。

ポッドキャスト始めました

あまり身の回りで知ってる人がいないゲームを100時間単位で遊びスクリーンショットとともに感想を綴ったり、たくさんの映画を観てたり、東京が暑いからという理由で北海道にプチ家出をしたりすることで有名なみやおかさんと、30分だけ!とか言いながら結局2時間くらいゲームにまつわるあれこれをダラダラ話すポッドキャストを始めました。

@IDA_10 x @miyaokaのピコピコキャスト

ブログを書くのとはまた違う楽しさがあり、なるべく長く続けたいなーと思っております。

緊急来日特別企画「@IDA_10 の没ネタ大鎮魂祭!」in 下北沢altoto

http://tweetvite.com/event/h8ctrlフライヤークリックでイベント詳細ページへ

やー、というわけでひさびさの更新はなんとイベント告知です。

豪華メンバーによる楽しいDJと、IDA-10*1こと私のゲーム企画者10年目の没ネタ供養祭!まだまだ調整中ですが、サンプラーはこんなかんじになっております↓

  • 相手の血を吸って太る力士が横綱を目指すゲーム、『吸って、太って、はっけよーい!』
  • XXのメンバーがXXるのを身をもって隠す新機軸体感ゲー、『XXXXX、マジで出撃5秒前』
  • 犯罪者のXXXXXXXXXXXXXXXXるゲーム、『XXXX24時』
  • 健康になって内臓をなるべく高く売るゲーム、『XXXXXXXXXX』
  • XXXX、XXXXXXXXXXX!!、『XXXXXX!!!!』

などなど、珠玉の本気タイトルが目白押し!

他にも、日本未発売のあのタイトルに入るはずが危険すぎてプロデューサーからストップがかかったXxXXxーのXX撮り写真をこっそりお蔵出しなど、発売タイトルの闇に消えた没仕様もあわせて供養!

オーガナイズしてくださったid:kiyo-shit(a.k.a. @kiyosick)さんと、お忙しい中すばらしいフライヤーをつくって頂いた@YDR_Jerseymanさんに感謝!

参加なら今すぐ下のリンクからYESをクリック!もう2度とありません!この機会をお見逃しなく!

Tweetvite :: 緊急来日特別企画「@IDA_10 の没ネタ大鎮魂祭!」 in 下北沢altoto

*1:おまえ誰だよ!という方はこちらを→IDA-10 氏2万字インタビュー - LYEのブログ

ソーシャルゲームとか無料ゲームとかゲームの未来とか

さいきん日本語圏の人から立て続けに「無料ゲーだのソーシャルゲーだの、まじサックっすよね?」的な同調を求められたんで、一応今のスタンスを表明しようかなと。ていうか、前からたいして変わってないんですが、Twitterにこんな

内容の投稿をしたせいかもしれないし、このブログでは今世代コンシューマゲーム開発の話が多いせいかもしれないけど、思ってもいないレッテル貼られて余計な敵をつくってはたまらん。というわけで、夢見がちなコンシューマゲーム開発者こと僕の近視眼的な結論は、

「無料ゲームへ流れは止めようがない。だから、今までゲームを遊ばなかった人が『ゲーム的な何か』に興味をもったり、まかり間違って財布を開く気になったところに、すかさず自分の好きな遊びを売り込むしかないんじゃね?」です。

この波がきた当初は、「うわーすっげー儲けてるじゃーん!どうやんの?どうやんの?おせーて!おせーて!」っていう見方が勝ってたんですが、ちょっと遊んだり調べたりするうちにあっというまに暗ーい気持ちになったりもしました。早い話が、「あー、ゲームっぽい時間つぶしのニーズを無料で充足されちゃったらうちら滅ぶわ。圧倒的なトップ以外さよならじゃーん。」って感じですね。立場こそ違えど、島国大和さんの考え(ゲームのフリーミアム化について本音を書いておくか。 島国大和のド畜生)と近い感想(だと勝手に思っています)。しかも、初期に比べてどんどんゲームが洗練されてきてるし、良くできたのも多い(ちなみに、このへんのイテレーションの妙というか技術は、個人的にどんどん見習いたい)。まさかこの僕がソーシャルゲームと呼ばれるものにお金を払うと思わなかった。

でも、これ氏も以前から仰っていますし、いろんな形で「旧来のゲームやばい」って話はずーっと前から言われてたことで、コンシューマのゲーム開発者だったら来る来るって予見してた未来のはず。ていうか、だいぶ前から段階的に起きている事象だと思うんですよ。そのひとつは「ゲームはドラクエとFFみたいな大作しか遊ばないお客さんが増えて、そこそこのゲームは立ちゆかなくなる」みたいな話で、事実、そうして去っていったゲームメーカーはすでにかなりあると思います。

だから、無料ゲームが旧来のゲームを殺す!みたいなことはもちろん深刻です。なんですが、まあ覚悟はあったという意味で、これまでゲームどころか、現実と関係ないものに一切興味を持っていなかった人が嬉々としてアングリーなバードを飛ばしてたり、ズーをタップしてたりするのを目の当たりにしたときの、

「流行すげー!世の中の力すげー!」

という素直な実感のほうが今僕の中では大事なかんじです。つきましては、「あの鳥が描く軌跡、『ギアーズ・オブ・ウォー』のグレネードの放物線とそっくりだよ!このゲーム、カーマインってやつが傑作でさ……」とか、「動物園?『ルナーク』ってゲームならもっとダイレクトに動物守れるよ!」とか、無理のある説得を試みるよりもですね、波にうまく乗って、そういったゲームを遊ぶ人のほんの一部にしか刺さらないけど、自分もすごく楽しめて、生きるのに必要なくらいのお金を払ってもらえるゲームを考案してみちゃったりしたいなーと、Free2Playとか呼ばれるゲームに関してはそう思います。

だって、AAAと呼ばれる超大作やトガりまくったエッジーなゲームの需要はまだしばらくあるとして、ここさいきん無料アプリで遊んでる人たちがゲームっぽいことする時期って、へたしたら彼らの一生で今だけかもしれないじゃないですか。ていうかもうピーク過ぎそう?てる?気配ヒシヒシじゃないですか。急がないと!って気持ちでいっぱいです。

で、まあそれが目先の感想ででしてね。ポエミーでドリーミーな話も少しするとですね、同僚から、フィリピンの実家に帰ったら文字もろくに読めないおっかあがフェイスブックのゲームやってた!信じられん!ってエピソードを聞いたり、アフリカの発展途上地域に寄付されたPCで無料ゲームが意外に遊ばれてたりとかいう事実を知るとですね、「たまごっちもテトリスキーホルダーも流行ったけど、結局一過性だったじゃん」(「WiiとDSのブームで寄ってきたライトユーザーは、結局ブームが去ればいなくなったじゃん」でも可)みたいな、何回ループすれば気が済むんだよ!的な話とは次元が異なる新しい時代のダイナミズムを感じるわけですよ。さらに、無料のゲーム開発ツールであるところのUnity(http://unity3d.com/)とかUDK(http://www.udk.com/)とかの充実をあわせて考えるとですね、ほんとうにもう、電子ゲームという遊びそのものの未来がどうなるのか、楽しみでしょうがないわけです。世界のすみずみまでネットワークが行き渡って、FacebookiTunes Storeのようなあまねく広まったゲームを商売にする基盤があって、その開発ツールが無料で手に入るのが2011年です。アフリカのジャングルで育った人が作ったゲームとかちょう遊んでみたいし、僕の作ったゲームの感想を聞いてみたい*1

とまあ、こんなところでしょうか。一応いっとくと、だからコンシューマゲーム開発者は安心していいとかそんなことまったくないですよ。まったくない、まったくないんだよ!畜生!誰か助けてー!

*1:もちろん、世紀末ころWWWで俺様ちゃんが全世界に情報発信!とか盛り上がってたのに今じゃおしっこ我慢してまーすみたいなどうでもいい文字列を垂れ流してる現実とかも知ってるわけですが、まあいいじゃない。